2014年3月29日土曜日

正直になって伊賀大介に聞いてみる。第1回


宮藤官九郎監督作品や大人計画の舞台などクセの強い衣装表現を得意とする一方、「おおかみこどもの雨と雪」といった大衆向けアニメーション映画でキャラクターのスタイリングを担当するなど、ジャンルに囚われず仕事を続けている人はなかなかいないと思います。今回は服飾業界きっての好漢、スタイリストの伊賀大介さんに聞きました。





いかに普通っていう枕詞と戦っていくか 



―――伊賀さんのスタイリングは人間のもともとの綺麗さだったり、姿勢を肯定しようとしてるように感じたのですが、どうでしょう?

伊賀大介(以下、伊賀):それは何を見て思ったの?

―――インターネットに広がってるインタビュー記事とか、あと雑誌の特集ですね。メンズノンノの伊賀文庫100回記念号も買いました。

伊賀:あ、俺が(水道橋)博士と話してるやつ?

―――そうです。岡本太郎が好きだったりする影響なんでしょうか?

伊賀:岡本太郎は超でかいよね、やっぱり。アシスタントの時に読んでたのもあって。『今日の芸術』*1が知恵の森文庫で復刻したのが2000年か2001年でしょ? だから、俺が189歳ぐらいなのかな?

―――文庫だと本自体がすごい綺麗じゃないですか。それで、ちゃんと今風の字体になってるから、いつのやつだろうと思ったら最初に出たのは1950年とか、それぐらいのやつなんですよね。

伊賀:そうそう。戦争が終わって5年か6年なんだよね。

―――伊賀さんは古本屋を見つけたら普通に入られたりするんですか?

伊賀:そうだね。時間ありゃあね。古着とかもそうだけどさ、どこに何があるか分かんないでしょ? 

―――分からないですね。

伊賀:ねぇ。今、ネットでアーカイブが残ってるって言ったってさ、ウィキぺディアとかもそうだけど基本的なソースが無いじゃん? だから、すべての情報に対して自分で裏を取りに行くっていうかさ。その人がその人たる物を。俺は岡本太郎について色々読んだりしてるけど。岡本太郎ってさ、東宝かなんかがやってる歌舞伎の美術をやってたりするんだよね。そしたら、もうそれが今、検索しても残ってないんだよ。昔の『太陽』って雑誌があるじゃん? あれの、すごい昔の歌舞伎特集ってのがあって。それが1968年ぐらいのやつなんだよね。それを古本屋で買ってさ、おもしれぇなと思ったら。え~っと、誰だったかな(深く考えて)、岡本太郎の鼎談があって、「僕が歌舞伎をやった時…」って、すごいちっちゃいコマで残ってたりするんだけど。そういうの知らないじゃん?

―――知らないですね。

伊賀:大竹伸朗*2さんのことも雑誌のインタビューを全部読んでるわけじゃないからさ。古本屋行ってさ『若者たちの神々』とか、ハタチぐらいの大竹さんのインタビューを読めたりとかするけど、すべての雑誌まではフォローできないからさ。実際に俺と同い年の時にどういう風に思ってたかとかさ。著作は残るけど、インタビューとか全体までは辿れないじゃん。だから、そういう出会いがわからないから古本屋とかに行くっていう。

―――実際に物に触れるっていうことですよね。

伊賀:そう。何が転がってるか分かんないじゃん。

―――手ざわりとか関係ありますよね。

伊賀:いや、モロあるでしょ!

―――そうですよね! 匂いとか特に強いですよね。

伊賀:あるあるある全然! これは話完全にずれるけど。じゃあ20年ぐらい前の映画のポスターってなんでカッコいいんだろうなって思ったら、それは今では公害になってるから、そこで使われてるインクが使えませんってことになってたりするじゃん。それによって、ものすごく大気汚染が進んで、「人間って本当ダメだな」とも思ったりするけどさ。そのポスターのロゴのなんとも言えない赤い色ってなんなんだろうなって思ったら・・・・。

―――そのインクでしか出せない色だったと。

伊賀:そうそう。そういうことだったりするから。だから、調べられる限り色んな角度から見てみないと分からないし。基本的に歴史って残った者が改ざんしてくじゃん。

―――そうですね。残った人が前の歴史に遡って変えていったりする場合もありますからね。

伊賀:そいつがどういう奴だったかとかさ。分かりやすく言えば明智光秀がどんな奴だったかは分かんないみたいな話だったりするからさ。実際に物質として残ってる物のほうが俺は信用できる。

―――スタイリングの仕事をしてる人達って本は読む方ですか?

伊賀:分かんないね。あんま話しないからね。

―――僕がブログを始めようと思った理由にファッションって軽く語られすぎてるんじゃないかなっていうのがあって。そういうのを調べてくうちに学校で学ぶことを使ってファッション論をやろうみたいな人たちがいることを知って、そこにコミットしようとしたことから始まったんですね。なので、ファッションにおいて読む力ってどう影響するんだろうなと思ってるんですけど。

伊賀:どうだろうね。これは本当に何回も話してて直接的な答えになってないんだけど。俺がなんで本を読むかって言うと、とどのつまり好きだから、楽しいから、暇がつぶせるから、自分の知らない世界を知れるからっていうの全部あるんだけど。

中学校の時に授業中に小説を読んでいて、先生に怒られたと。授業が終わって呼びだされて、その人は社会のハヤカワ先生っていう人だったんだけど。その先生も本読みだったっぽいからさ、その人が言ったのは「でも、本を読むのはすごく良い」と。なぜならノンフィクションであれフィクションであれ、本っていうのは架空であれ大概ひとりの人生について書いてあるから。そうすると一冊本を読むとこういう世界があるんだっていうのをひとつ知れると。一冊も読まない奴は自分の一通りしかわからない。だけど100冊読むと101通りになると。だから本はすごく良いものだよ、って言われたのがあって、それが俺の中ではすごく残ってるんだよね。

だから、映画とかもそうだけど、読めば読むほど世の中ってありえないことなんか無いなと思うし。「普通無いよ」って言われても「いやいや、そういう人いるよ」みたいな。90歳で初めて小説を書いたっていいしさ。普通っていう枕詞が新しいものを遠ざけるわけじゃん。「普通やんないっしょ」みたいなさ。いかに普通っていう枕詞と戦っていくかっていう感じじゃん? 例えば『破獄』っていう吉村昭の本があるんだけど。それは白鳥由栄っていう日本の脱獄物のモデルになった脱獄囚の話なんだけど。それは読んだ方が良いよ。

―――そうなんですね。読みます!

伊賀:その人はすごいんだよ。飯でみそ汁が出るじゃん。それを牢屋の檻に注して、3年かけて錆させてそこから脱出して・・・・。あとは読んだ方がいいと思うけど、その何がすごいかって言うと脱走の理由が無いんだよね。看守がムカつくとか、閉じ込められてんのが嫌だからとか、脱出だけが目的なの。本を読めばそういうものを知れて、自分の中に入るじゃん。自分ができるできないはまた別の話だとして。そういう意味では人間として本を読んでるやつの方がおもしろいよ。だけど洋服に関して必ず読まないといけないかって言ったらそうでもないと思うけど。なんとも言えないところだね。


  1.  『今日の芸術』・・・「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」。斬新な画風と発言で大衆を魅了しつづけた岡本太郎。彼が伝えようとしたものは何か時を超え、新鮮な感動を呼び起こす「伝説」の名著。(Amazon商品ページより抜粋)
  2. 大竹伸朗・・・伊賀さんが影響を受けている日本の現代芸術家。武蔵野美術大学油絵科卒業後、80年代初頭のニュー・ペインティングの旗手として鮮烈なデビューを飾ざると、以降、コラージュなどの絵画やゴミやガラクタを集めて作ったオブジェを始め、絵本や小説、エッセイ集の刊行や音楽など、多岐に渡って作品を発表し続けている。(http://www.lammfromm.jp/より抜粋)


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